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『新任警部補』佐竹一彦 [本の話]


新任警部補時価数千万円の幻の名刀「村正」盗難事件—。深井市にある由緒ある丹羽家の夫妻が、鋭利な刃物で無惨に切り殺される事件が発生した。現場周辺の積もった雪の上には犯人の足跡はなく、すべての扉、窓は施錠されていた。“雪の密室殺人事件”は、県警捜査一課の松本警部補と所轄署の小林刑事が担当。だが、事件には驚くべき結末が待っていた!元警視庁警部補の著者がミステリ界を震撼させた衝撃のデビュー作の文庫化!
【裏表紙より】



近年読んだミステリーの中で一番好きな作品です。
とは言っても、ミステリーファン歴の浅いにわかミステリーファンの僕です。

以前にも書いたんですが、この作品の面白い所は主人公の特殊な設定に尽きます。
もちろん謎解きやストーリーも秀逸ですが
この主人公の設定は、他の作家では絶対思いつく事の出来ないモノなんです。
何故なら、作者が元警部補だからこそ知り得た情報によるものだからです。

県警捜査一課の松本警部補は、過労で倒れた同じ捜査一課の警部補の代役として
ある殺人事件の捜査に加わる事になります。しかし…。(以下本文より抜粋)

 確かに、松本は捜査一課に籍を置く警部補だったが、生え抜きのベテランでも、所轄から引き抜かれた腕利きでもなかった。人事記録の勤務経歴欄には、十年間にわたって総務部教養課勤務、とある。しかも、二度の昇任後、異動した形跡はない。
 つまり、松本は警察学校を卒業して間もなく、その特殊技能を見いだされ、以来、一般の警察官とは異なる勤務に服していた。ある時は外国人被疑者や被害者の通訳。またある時は、国内で発行されている英字紙や、英文雑誌の警察関連記事を翻訳し、関係部局に配布する__。それが松本に課せられた任務だった。
( 中略 )
 だが、日本社会の急速な国際化は、当然のことながら、松本にも影響を与えた。外国人の増加によって、通訳担当者の需要が増加し、その結果、外事警察部門はもちろん、捜査部門にも語学の堪能な職員が配置されるようになった。
 松本もその一人だった。上司から内示を受けた時、軽い気持ちで承諾した。部署が変わっても、仕事の内容は同じだろうと思ったからだ。実際、着任してから、松本のもとに捜査実務に関わる仕事が舞い込むことはなかった。予想していた通り、部署が変わり、肩書きが変わっても、仕事の内容が変わることはなかった。
 しかし、それは戦場における、一時的な休戦状態のようなものだった。戦闘が再開され、戦況が悪化すれば、新兵であろうが、炊事兵であろうが、兵隊と名のつくものは全て、最前線に送り込まれるという戦場の現実を予想していなかっただけのことだ。
 松本は、ある日突然、その戦場の真っ只中へ放り出された。

この抜粋を読んでピンと来ない人は、多分読んでもそんなに面白くないと思います。
僕はこの設定でグッと引きつけられて物語の中に入って行き、あっという間に読んでしまいました。
佐竹一彦の作品の主人公は、基本的に普通の人間で
天才的な才能で事件を解決したりはしません。
この作品の主人公・松本警部補も例外ではなく、地道に捜査し、失敗して苦悩します。

僕が佐竹作品を好きな理由は、彼が書く登場人物たちの人間性です。
個性的で、暖かく、人間臭い。そしてまた男臭くもあります。
今作中でそれが凝縮されている場面が、主人公・松本警部補と補佐官が車中で会話する場面です。
ほんのわずかな場面ですが、僕的にはかなりの名シーンです。
その場面が伏線となって、ラストで思わず泣いてしまいました。

ミステリーを読み慣れている人にとって佐竹一彦は
きっと地味過ぎて物足りないのかもしれません。
警察内部を知り過ぎているが故に、極端な誇張がないですしね。
もしかしたら僕にとっては、そこが気に入っているのかもです。

僕が佐竹一彦を知った時にはもう、彼はすでに亡くなっていました。
新作を読む事ができないのが非常に残念です。


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